五代友厚 ロンドン東部(2)
Godai Tomoatsu, The East of London (2)

ロンドン左岸のセント・キャサリン・ドックスとロンドン・ドックス付近の地図
セント・キャサリンとロンドン・ドックス付近 St. Katharine and London Docks(Map Of London 1868, Edward Weller, by MAPCO)

ロンドン・ドックス(London Dockes)に近いワッピング(Wapping)から川向こうのロザーハイス(Rotherhithe)にトンネルが掘られ、この当時たいへんな観光名所となっていた。畠山ら留学生たちはこのテムズ・トンネル(The Thames Tunnel)を歩いて渡り、距離にして四町、つまり400メートルほどのあいだには途中見せ物などもあったという。トンネルはもともと両岸を結ぶ新たな交通手段を確保する目的でつくられたが、長引く工期とかさむ費用に車両を通すめどが立たず、しばらくのあいだ歩行者のみが利用していた。掘削を指揮した技術者ブルネルが発明した工法は画期的で、水底トンネルの建設が可能であることをこのトンネルで実証せしめた。

帰路、畠山たち薩摩藩留学生と案内役をつとめた山尾は蒸気船に乗り、テムズ川を遡上した。当時テムズ川には蒸気船がひんぱんに往来していたものの、鉄道の発達とともに観光船の色合いが濃くなりつつあった。のちに大阪の淀川にも蒸気船が行き交う時代があったが、陸運が発達する明治中頃にはそれも衰微したという。畠山たちは橋のそばの岸に降り立ったと言っている。宿舎のあるベイズウォーター(Bayswater)の最寄りといえばウェストミンスター(Westminster)あたりだろうか。山尾は、薩摩藩留学生たちを宿舎まで送ったあと、五代友厚らが逗留するサウス・ケンジントン・ホテルに向かった。数日後のベッドフォード(Bedford)視察にも山尾は同行しているから、その相談のためだったかもしれない。

Yamao Yozo from Choshu Domain guided a group of Satsuma students to some places in the east of London. After visiting the Tower of London and docks nearby, they walked through the Thames Tunnel and went back by steamboat.

<参考文献>
大久保利謙監修『新修森有禮全集第4巻』「畠山義成洋行日記抄」1994年
犬塚孝明 『薩摩藩英国留学生』 1974年
Andrew Cobbing, “The Satsuma Students in Britain: Japan’s Early Search for the ‘Essence of the West’”, 2000
George Bradshaw, “Bradshaw’s Guide through London and its Environs”, First published in Great Britain in 1861

  いいね Like

五代友厚 ロンドン東部(1)
Godai Tomoatsu, The East of London (1)

19世紀ロンドンのテムズ・トンネル
テムズ・トンネル The Thames Tunnel (British History Online)

薩摩藩留学生たちがロンドンで訪れた場所は、留学生の日記からうかがい知ることができる。畠山義成(当時の名は畠山丈之助、留学中の変名は杉浦弘蔵)の洋行日記によれば、慶応元年6月3日(新暦1865年7月25日)に長州藩留学生山尾庸三の案内でロンドン見物に出かけている。山尾は帰りがけに五代友厚や新納久脩(にいろひさのぶ)らが宿泊していたサウス・ケンジントン・ホテルに赴いたとのことなので、五代はこの日の見物には同行していないようだが、前後してこれらの場所を訪ねた可能性は高い。

畠山の日記によると、この日はロンドン大学で山尾と待ち合わせ、昼過ぎに4〜5人連れだって出発、最初に800年ほど前に建てられた古城ロンドン塔(The Tower of London)で兵士の調練や武器の陳列を見学している。中国やポルトガル、トルコ等との戦いで得た戦利品の剣、銃、鎧が数えきれないほど並べられ、大砲などもあり、また王冠や金細工も間近に見たとしている。

近辺で食事を済ませ、次に船の修繕場を見に行った。「修繕場」としか書いていないのでどこの修繕場かはっきりしないが、ロンドン塔の近くであれば、おそらく1805年に開かれたロンドン・ドックス(London Docks)か1828年に開かれたセント・キャサリン・ドックス(St. Katharine Docks)のいずれかもしくは両方であろう。どちらもテムズ川左岸にあり隣り合っていたが、ロンドン・ドックスの方は埋め立てられて現存していない。当時は、膨大な綿花や紅茶、ワインを積んだ船が盛んに出入りしていた。

Hatakeyama Yoshinari, who is one of the Satsuma students, wrote about a day that they made a tour of London in his diary. They went to the Tower of London, then to docks nearby. Godai Tomoatsu was probably not accompanied by them, but there is a possibility that he also went to the same places the other day.

<参考文献>
大久保利謙監修『新修森有禮全集第4巻』「畠山義成洋行日記抄」1994年
犬塚孝明 『薩摩藩英国留学生』 1974年
Andrew Cobbing, “The Satsuma Students in Britain: Japan’s Early Search for the ‘Essence of the West’”, 2000
George Bradshaw, “Bradshaw’s Guide through London and its Environs”, First published in Great Britain in 1861

  いいね Like

五代友厚 ロンドンの視察先(足跡篇)
Godai Tomoatsu, Inspection of London (Footprints) 

五代友厚は、ロンドンで何を見てきたのか? 芳名録に名前の残っているイングランド銀行は確かですが、ほかはあくまで推測です。大阪株式取引所をおこしたことを考えれば、イングランド銀行隣りにある王立取引所に立ち寄ったことは想像に難くないでしょう。また、大阪活版所の設立、大阪新報の発行にも関わった経緯から、新聞社を見学していても不思議ではありません。というわけで、今回はイングランド銀行(The Bank of England)、王立取引所(The Royal Exchange)、タイムズ(The Times)新聞社のあった場所を訪ねました。

What did Godai Tomoatsu see in London?  I visited the Bank of England, the Royal Exchange and the place where The  Times office used to be.

地下鉄バンク(Bank)駅、つまり銀行駅は、ロンドンのシティと呼ばれる金融街のど真ん中にあります。夕方5時頃駅に着くと帰宅ラッシュのすごい人並み、その中で写真を撮る余所者は家路を急ぐ人々にはいい迷惑だったはず。地上に出るととりわけ目を引く大きな建物がイングランド銀行と王立取引所です。

地下鉄バンク駅
地下鉄バンク駅 Underground Bank Station

8本の柱列が印象的な王立取引所の現在の建物は1844年に建てられました。株式取引所としてのスタートは1566年にさかのぼります。

王立取引所
王立取引所 The Royal Exchange

現在は取引所としては使用されておらず、レストランやカフェ、ブティックなどが入る商業ビルとなっているため自由に出入りできます。五代友厚が初代会頭をつとめた大阪取引所も、現物株式の取引を終了してからは取引所として使われているスペースはごく一部です。

王立取引所入口のひとつ One of the entrances, The Royal Exchange
王立取引所内部
王立取引所内部 Inside of the Royal Exchange

蛇足ですが、王立取引所のうしろににょっきりそびえ立つガラス張りのビルは、鋭角三角形のリーデンホール・ビルディング(The Leadenhall Building)と丸いコーン型の30セント・メリー・アクス(30 St Mary Axe)です。

王立取引所を正面に見て、左手の一角すべてを占める巨大な建物がイングランド銀行です。看板もなければ入口もあるかないかよくわからないような建物で、高い塀に囲まれています。大阪中之島にあった弘成館および五代邸の跡地は日本銀行になりましたが、日本銀行も看板らしきものは一切なく、正面入口は常に閉ざされていてどこから入るものなのかすぐにはわかりません。

イングランド銀行
イングランド銀行 The Bank of England

イングランド銀行は一般には中に入れませんが、興味があれば附属の博物館を見学することは可能です。

イングランド銀行博物館
イングランド銀行博物館 Bank of England Museum

王立取引所の真正面で二手に分かれている道路の左側がクイーン・ビクトリア・ストリートです。この道をまっすぐ西へ15分ほど行った先にブラックフライアーズ駅(Blackfriars station)があります。

駅の少し手前、駅とは道路をはさんで反対側に茶色い柱がアクセントのガラス張りの大きなビルが建っていて、このあたりにイギリスで最も古い新聞のひとつであるタイムズ(The Times)の社屋がありました。現在は、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(The Bank of New York Mellon)という銀行になっています。

タイムス新聞社があった場所
タイムズ新聞社があった場所 The place where The Times office used to be
 銀行の建物に沿ってブラック・フライヤーズ・レーン(Black Friars Lane)からプレイハウス・ヤード(Playhouse Yard)に入ると広場のようになっています。

ブラック・フライアーズ・レーンプレイハウス・ヤード

昔はプリンティング・ハウス・スクエア(Printing House Square)と呼ばれ、この名はタイムズ新聞社の所在地として長く親しまれてきました。

プリンティング・ハウス・スクエアのあった場所
プリンティング・ハウス・スクエアのあった場所 Printing House Square in former days

ビルの谷間のスクエアには、どこも煙草を一服するビジネスマンの姿が多く見受けられます。

<住所>
王立取引所(The Royal Exchange):3 Royal Court, London EC3V 3LN
イングランド銀行(The Bank of England):Threadneedle St, London EC2R 8AH
元タイムズ新聞社(ex The Times office)、現バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(The Bank of New York Mellon):160 Queen Victoria St, London EC4V 4LA

  いいね Like

 

地図の中心へ
交通状況
自転車で行く
乗換