五代友厚 ベッドフォード視察(足跡篇)
Godai Tomoatsu, Visiting Bedford (Footprints)

五代友厚らが農業機械の視察に行ったベッドフォード(Bedford)を訪ねました。

I traced the places Godai Tomoatsu visited in Bedford, such as the Britannia Iron Works and villages of Clapham and Biddenham.

ロンドンのセント・パンクラス駅(St. Pancras Station)から出発。セント・パンクラス駅は、映画ハリーポッターの撮影にも使われたビクトリア時代を代表するネオ・ゴシック建築のひとつです。ヨーロッパ大陸へ渡る国際列車ユーロスターの発着駅にもなっています。

セント・パンクラス駅
セント・パンクラス駅 St. Pancras Station

テムズリンク(Thameslink)で1時間弱、ベッドフォードに到着。今では十分ロンドンへの通勤圏内です。現在のベッドフォードは非常に国際色豊かな町です。

ベッドフォード駅
ベッドフォード駅 Bedford Station

線路沿いに残るミッドランド・ロードのレンガ壁。ミッドランド鉄道当時からのものと思われます。
ミッドランド・ロード

ベッドフォード駅から南へウーズ川(River Great Ouse)に向かって歩きます。橋を渡って右に曲がりしばらく行った先にブリタニア・アイアン・ワークス(The Britannia Iron Works)の門の一部が現れます。駅から20分ほどの距離です。

ブリタニア・アイアン・ワークスのゲートハウス
ブリタニア・アイアン・ワークスの門 The Gatehouse of the Britannia Iron Works

ブリタニア・アイアン・ワークス

一時は取り壊しも検討されていましたが、重要な産業遺産として保存が決まったようです。往時は川向こうまで工場の敷地が広がっていました。

町の中心部にあるバス・ステーションに向かいます。駅から歩く場合は東へ15分ほどのところです。途中、教会の前でマーケットが開かれていました。

ベッドフォードのマーケット
ベッドフォードのマーケット Bedford Charter Market

五代らがハワード家の農場を見学したクラパム(Clapham)やビデナム(Biddenham)へ行くバスは30分か1時間に1本しかありません。バス・ステーション内の観光案内所で配布されている時刻表は、あらゆる方面のバス停や時刻表が一冊にまとめられていてたいへん便利です。

クラパムのハイ・ストリート(High Street)沿いにある郵便局前で降りました。近くにセント・トーマス・ベケット教会(St. Thomas Becket Church)という非常に古い教会があります。

クラパム
クラパム
セント・トーマス・ベケット教会
クラパムのセント・トーマス・ベケット教会 St. Thomas Becket Church in Clapham

その裏手をのぞいてみると・・・いました、草を食む牛や羊。軽く100年は経っているであろう畜舎。ハワード家が持っていた農場はもう少し北東にあったようですが、薩摩藩の留学生たちも似たような光景を見たのではないでしょうか。

クラパムの農場にいた羊クラパムの農場にいた牛クラパムの農場 畜舎

バス停近くにあるホース&グルーム(The Horse & Groom)という名のパブの敷地には美しいウーズ川の支流が流れています。

ウーズ川の支流
ウーズ川の支流 A Tributary River of the Great Ouse

クラパムからビデナムに直接行くバスはないので、再度ベッドフォードのバス・ステーションからビデナムに行くバスに乗りかえます。ほぼ住民しか利用しない路線のためか、運転手に心配されどこに何をしに行くのか聞かれました。バスはビデナムの北側と南側を通る路線があり、私は北側で降りて南側を通るバスで帰りました。ビデナムは瀟洒な家が建ち並ぶ静かな村で、石壁や17世紀ごろからの茅葺屋根のコテージが今も残っています。

ビデナムの石壁
ビデナムの家々を囲む石壁 Stone walls in Biddenham
ビデナムの茅葺きコテージ
ビデナムの茅葺きコテージ Thatched cottages in Biddenham

<住所>
ブリタニア・アイアン・ワークス(The Britannia Iron Works):Kempston Road, Bedford, Bedfordshire
ベッドフォード観光案内所(Bedford Travel and Tourism Centre):Thurlow St, Bedford MK40 1LR
セント・トーマス・ベケット教会(St. Thomas Becket Church):Green Ln, Clapham, Bedford MK41 6ER
ビデナムにある茅葺きコテージのひとつ(Thatched cottage in Biddenham):Main Road, Biddenham, Bedford MK40 4BD

  いいね Like

 

五代友厚 ベッドフォード視察(2)
Godai Tomoatsu, Visiting Bedford (2)

ブリタニア・アイアン・ワークスがジャパン・ウィークリー・メールに載せた新聞広告
ブリタニア・アイアン・ワークスの新聞広告 An Ad of the Britannia Iron Works in the newspaper

五代友厚らが訪れたブリタニア・アイアン・ワークス(The Britannia Iron Works)は、1859年ベッドフォードのケンプストン・ロード(Kempston Road)にジェームズとフレデリック・ハワード(James and Frederic Howard)兄弟により設立された。1870年から日本で発行されていた英字新聞ジャパン・ウィークリー・メール(The Japan Weekly Mail)にはブリタニア・アイアン・ワークスが製造する農機具の広告が載っているから、イギリス国内から世界に販路を広げようとしていたのだろう。

3時間ほど工場を見学した後、一行はブリタニア・アイアン・ワークスの創業者であり、当時ベッドフォード市長でもあったジェームズ・ハワード氏(Mr. James Howard)と共に午餐をとり、続いてクラパム(Clapham)にあるハワード家の農場で蒸気プラウ(すき)が実際に使われている様子を見たり、刈取機を操作した。かなりうまく操縦したようで、何でも素早く吸収する日本人に驚きを隠せない様子がタイムス紙の記事に表れている。

次に、クラパムから南西の方向にあるビデナム(Biddenham)に移動し、チャールズ・ハワード氏(Mr. Charles Howard)所有のショートホーン種の肉牛や羊を見た後、再度市長と夕食をとった。一行は様々なもてなしに感謝の意を伝えて9時過ぎの最終列車に乗り、ロンドンに到着したのは夜も更けた11時半ごろであった。

After staying in the Britannia Iron Works for about 3 hours, Godai and the Satsuma students took luncheon with the Mayor of Bedford Mr. James Howard.  Subsequently they visited Messrs. Howard’s farms at Clapham and Biddenham to see how the machines were actually used. They left for London by the last train and arrived at around 11:30pm.

<参考文献>
大久保利謙監修『新修森有禮全集第4巻』「畠山義成洋行日記抄」「英國新聞記事集」1994年
“The Japan Weekly Mail”, 20th July 1878

  いいね Like

五代友厚 ベッドフォード視察(1)
Godai Tomoatsu, Visiting Bedford (1)

 

五代友厚らが訪れたイギリス・ベッドフォードの鉄工場 ブリタニア・アイアン・ワークス
ブリタニア・アイアン・ワークス The Britannia Iron Works (The Virtual Library, Bedford Borough Council)

五代友厚と留学生一行は、慶応元年6月7日(新暦1865年7月29日)にロンドンの北80キロほどの場所に位置するベッドフォード(Bedford)へ赴いた。蒸気を用いた鉄製の農業機械とその使い方を見学するためだ。ベッドフォードは、当時イギリスでも先進的な農業を行っている地域としてその名が知られていた。

畠山義成の日記によると、朝8時過ぎに薩摩藩の留学生6~7人と長州藩の山尾庸三、野村弥吉がベイズウォーター(Bayswater)の宿舎を出発し、汽車の出発ぎりぎりに五代、新納、堀の3人が駅に到着したとある。ミッドランド鉄道(Midland Railway)がロンドンの終着駅として建設したセント・パンクラス駅(St. Pancras Station)は1868年の完成だから、五代らが滞在していた1865年当時はまだセント・パンクラス駅のすぐ東隣りにあるキングス・クロス駅(King’s Cross Station)がベッドフォード行きの汽車の発着駅であった。皆いっしょに汽車に乗り込み、ベッドフォードの工場に到着したのは昼の12時頃であった。

ベッドフォードにおける一行の様子は、タイムズ紙(The Times)1865年8月2日号が詳しく伝えている。薩摩からの日本人一行にはロンドン大学ウィリアムソン教授(Professor Williamson)やグラスゴー大学教授など数名の専門家も同行していて、まずブリタニア・アイアン・ワークス(The Britannia Iron Works)という鉄工場を訪れたとある。彼らはここでつくられる蒸気プラウ(すき)に非常なる興味を示し、また驚くべき早さで細部まで理解したと書かれている。

On 29th July 1865, Godai Tomoatsu and some Satsuma students went to Bedford, about 50 miles north of London, to see an improved agricultural system.  They first visited the Britannia Iron Works where agricultural implements and machines were made.

<参考文献>
大久保利謙監修『新修森有禮全集第4巻』「畠山義成洋行日記抄」「英國新聞記事集」1994年
Clement E. Stretton, “The History of the Midland Railway”, 1901
George Bradshaw, “Bradshaw’s Hand Book”, 2012 (Old House Books, Facsimile Edition)

  いいね Like