
薩摩藩留学生たちがロンドンで訪れた場所は、留学生の日記からうかがい知ることができる。畠山義成(当時の名は畠山丈之助、留学中の変名は杉浦弘蔵)の洋行日記によれば、慶応元年6月3日(新暦1865年7月25日)に長州藩留学生山尾庸三の案内でロンドン見物に出かけている。山尾は帰りがけに五代友厚や新納久脩(にいろひさのぶ)らが宿泊していたサウス・ケンジントン・ホテルに赴いたとのことなので、五代はこの日の見物には同行していないようだが、前後してこれらの場所を訪ねた可能性は高い。
畠山の日記によると、この日はロンドン大学で山尾と待ち合わせ、昼過ぎに4〜5人連れだって出発、最初に800年ほど前に建てられた古城ロンドン塔(The Tower of London)で兵士の調練や武器の陳列を見学している。中国やポルトガル、トルコ等との戦いで得た戦利品の剣、銃、鎧が数えきれないほど並べられ、大砲などもあり、また王冠や金細工も間近に見たとしている。
近辺で食事を済ませ、次に船の修繕場を見に行った。「修繕場」としか書いていないのでどこの修繕場かはっきりしないが、ロンドン塔の近くであれば、おそらく1805年に開かれたロンドン・ドックス(London Docks)か1828年に開かれたセント・キャサリン・ドックス(St. Katharine Docks)のいずれかもしくは両方であろう。どちらもテムズ川左岸にあり隣り合っていたが、ロンドン・ドックスの方は埋め立てられて現存していない。当時は、膨大な綿花や紅茶、ワインを積んだ船が盛んに出入りしていた。
Hatakeyama Yoshinari, who is one of the Satsuma students, wrote about a day that they made a tour of London in his diary. They went to the Tower of London, then to docks nearby. Godai Tomoatsu was probably not accompanied by them, but there is a possibility that he also went to the same places the other day.
<参考文献>
大久保利謙監修『新修森有禮全集第4巻』「畠山義成洋行日記抄」1994年
犬塚孝明 『薩摩藩英国留学生』 1974年
Andrew Cobbing, “The Satsuma Students in Britain: Japan’s Early Search for the ‘Essence of the West’”, 2000
George Bradshaw, “Bradshaw’s Guide through London and its Environs”, First published in Great Britain in 1861